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9月30日

この日が来てしまいました。

この日は、私にとっても翔にとっても大切な日だね。

私たちの、赤ちゃんを失った日。

そして、私たちの幸せをその子に誓った日。

とてもとても大切な日です。

もうすぐ翔が来る頃かな。

あの子の分まで幸せになろうなって言ってくれたこと。

その言葉だけで十分幸せだよ。

翔には夢があるから、生んであげる事は出来なかったけど

またいつの日か、私たちの元へと帰って来てくれるよね。

笑顔で迎えられるように、頑張ろうね。











人間というのは、精神の極限に立った時、こんなにも震えるものなんだと思った。

鼓動は今までにない速さで激しく乱れ、自分では抑えられない位の震えが全身を襲う。

息ができない。

苦しい。

大きく揺れる手元から、日記が大袈裟な音を立てて床に落ちる。

その音を遠くで感じながら、私も倒れるように床に転がった。

苦しい。

息が…できない…。

誰か…たすけて。

キッチンでは煮立った鍋がガタガタを音をたてて蓋をゆらしている。

危ない…火を止めなくちゃ。

そう思うのに足に力が入らなくて、伸ばされた右腕だけがキッチンへ力なく向くだけだった。

翔…嘘でしょ?

これは、彼女が書いた空想の日記なんだよね…。

その時、うまく呼吸が出来ぬまま、うっすらと遠のいていく意識を引き戻すかのように携帯のベルがなった。

翔?

――違う。

昌斗からだ。

鳴り響く携帯を開くと「昌斗、助けて」と叫んだ。

いや、叫んだというのは違うかもしれない。

きっと私の声は、虫の鳴くような小さな声しか出ていなかったと思う。

とっさに異変に気付いた昌斗の声が耳元で響いた。

「リョウ?どうした?何があった!?」
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