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「マサト…私、死んじゃう…」

握り締めた携帯を手に、呼吸を乱しながらも必死に助けを求めた。

お願い、助けて。

誰か――ウソだと言って下さい――。

私は――何?

彼女とは別れられるはずがない。

こんなに愛されているのに。

こんなに幸せを誓っているのに。

――子供を堕ろしてまで誓い合った相手なのに。

「リョウ!今、どこだ!!」

昌斗が受話器の向こうで叫ぶ。

「彼氏の家…」

「そいつは家にいないのかっ?」

「…いない」

「大丈夫か?何があった?」

「もう…分らなくなった」

「は?大丈夫か?大学の近くか?今すぐ行くから!!電話、切るなよ!!」

昌斗は、きっと私が刺されるか自殺でもしたと勘違いしてるに違いない。

刺されてもおかしくない高校生活だったからなおさらだ。

これは自殺と言うより…自爆?

そんな事を考えているうちに、呼吸が少し楽になり震えも幾分治まっていた。

「昌斗…大丈夫…もう死なないと思う」

「いや、今日のオマエはおかしい。彼氏がいても連れて帰るから。学校の前で待ってろ。10分で行く」

飲み会の時は20分はかかるって言ったじゃんよ、と心の中で毒づいた。

それだけ昌斗が私を心配してくれたという事だろうか。

何でこんな時に、言って欲しい台詞を言うの?

私は「分った」と短く答え、切るね、と電話を切る。

震えが治まった体でキッチンへ向かい、火を消す。

蓋をあけると、美味しそうな匂いが部屋中に広がった。

冷静に、元の場所へノートを戻し、用事が出来たから帰ると書置きを残して部屋を出る。

鍵は1階のポストへ封筒に入れて隠して後にすることも忘れなかった。

こんな状況で――

こんなにも心がボロボロになった状況で、私は不気味なほど冷静だったのだ。

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