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「リョウ、最近元気ないみたいだけど」

学食の親子丼をテーブルに運んできた美里が言った。

私は手元のうどんを箸でかき回しながら「別に」と答える。

「別にじゃないわよ。全然食べてないじゃない」

翔とケンカでもしたの?

と美里は上目遣いで私を見る。

まぁ、誰が考えてもそう思うよね。

実際、海にも付いて行かなくなったし。

ケンカだったらどんなに楽だったか。

翔は私がノートを見てしまった事を知らない。

言えば家捜ししたのかと怒るだろうし、第一その話をする事自体が何よりも苦痛だった。

早く忘れたいと思ってるのに、電車で、テレビや雑誌で赤ちゃんを目にするたびにどうしようもない程の目眩と動機が体に襲い掛かる。

どうすればいい?

私が耐えればいい。

あの日、全てを話した私に昌斗が言った。

「そもそも彼氏が隠してる事自体問題なんじゃないか」

言える訳ないじゃんね。

言える程の仲じゃないって事だよ。

私は、彼女と会えない時だけの女…

ただ、それだけなんだって事。

私は俯き、そして笑顔を作って顔を上げる。

「最近、体が辛くてねー」

生理前なのかな、とおどけて見せた。

そんな私をしばらく心配そうな眼差しで見つめた後、美里は「なら、いいけど」と視線を箸先に向ける。

ゴメンね。

言いたくても言えないよ。

私は…思ってる事を口に出来ない。

これこそ言ってはいけない事だから。
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