Thank you for...
「俺さ、今日トオルからバイク借りたから一緒に帰ろ」
翔は笑っている。
私の心の内はバレずに済んだんだと思った。
だって、バイクの鍵を指先で器用にクルクル回す姿は、私の変化も気に留めてないといった感じだったから。
「今日は美里と買い物に行くから、ゴメンね」
私は残念そうに眉を下げて笑ってみせる。
翔は私の言葉を聞くと、回していた指を止めて私を見る。
小さな弧を描いていた鍵が、勢いをなくして机の上にゴトリ、と落ちた。
「…やだ」
「……は?」
思わず視線を鍵から翔に移す。
翔は真顔のまま私を見ていた。
「やだ」
「だから……」
「嫌だって言ってんじゃんよ」
まるで駄々っ子のように「いや」の一点張りを続ける翔を、私は驚きの眼差しで見ていた。
初めて目にする姿だったから。
いつもなら「友達を優先して偉い」って言ってたじゃない?
「美里、今日は他の奴と遊べ」
「はぁ?」
「俺に譲れって言ってんの」
調子のいい顔で笑いながら美里の頬をつねる。
それに対して「痛いってば」と睨みながら手を振り払う美里。
目の前の光景を、テレビでも見るかのように見つめる私。
「じゃ、俺ら午後の講義ないし帰るわ」
翔はそう言って立ち上がると、私の腕を引っ張って歩き出す。
半ば引きずられるような形になりながら、助けを求める顔で美里の方に振り返ると、美里は諦めたような笑顔で「バイバイ」と手を振っていた。
翔は笑っている。
私の心の内はバレずに済んだんだと思った。
だって、バイクの鍵を指先で器用にクルクル回す姿は、私の変化も気に留めてないといった感じだったから。
「今日は美里と買い物に行くから、ゴメンね」
私は残念そうに眉を下げて笑ってみせる。
翔は私の言葉を聞くと、回していた指を止めて私を見る。
小さな弧を描いていた鍵が、勢いをなくして机の上にゴトリ、と落ちた。
「…やだ」
「……は?」
思わず視線を鍵から翔に移す。
翔は真顔のまま私を見ていた。
「やだ」
「だから……」
「嫌だって言ってんじゃんよ」
まるで駄々っ子のように「いや」の一点張りを続ける翔を、私は驚きの眼差しで見ていた。
初めて目にする姿だったから。
いつもなら「友達を優先して偉い」って言ってたじゃない?
「美里、今日は他の奴と遊べ」
「はぁ?」
「俺に譲れって言ってんの」
調子のいい顔で笑いながら美里の頬をつねる。
それに対して「痛いってば」と睨みながら手を振り払う美里。
目の前の光景を、テレビでも見るかのように見つめる私。
「じゃ、俺ら午後の講義ないし帰るわ」
翔はそう言って立ち上がると、私の腕を引っ張って歩き出す。
半ば引きずられるような形になりながら、助けを求める顔で美里の方に振り返ると、美里は諦めたような笑顔で「バイバイ」と手を振っていた。