Thank you for...
友達に借りたというバイクは400ccの大きなものだった。
車の助手席に乗る事はあっても、バイクの後ろに乗るのは生まれて初めてだった。
手渡されたヘルメットを両手で抱えたまま、バイクにまたがりキーを差し込む翔を見る。
「早く乗れ」
エンジン音が響く中、私は大人しく翔の後ろの位置に座る。
「しっかり掴まってろよ」
そう言って走り出したバイク。
冬の風が、針のように体を容赦なく突き刺した。
翔の腰に手を回したままじっと痛みに耐える。
痛い、寒い……。
このまま手を離してしまったら楽になれるのだろうか。
そんな馬鹿げた事が頭を過った。
ダメだ……頭、おかしくなってる。
そんな自分を奮い立たせる様に腰に回した手に力を入れた。
辛いから傍には居たくない――
そう思ったはずなのに、くっついた背中の広さと、じんわりと伝わってくる翔の体温が私の決心を鈍らせる。
やっぱり離れたくないと、心の底から噴出す思い。
少しだけでもいい。
卒業するまでの、残り時間を――
翔と一緒にいられたら――
彼女に…天国へ行った赤ちゃんに呪われても――
翔が私の傍にいてくれれば、私は生きてる事を実感できると思った。
私は間違ってるのかな。
自分の存在意義を、翔といる時間にしか見出せないでいる。
それは、どうしようもなく止められない思いで…愛するという事の深みに、自ら足をさし出してるバカな女。