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【荒瀬 真由子】

送り主の名前を視界に捕らえた瞬間、心臓がドクンと大きく波打つ。

あらせ…まゆこ。

マユコ……。

……彼女だ。

日記の所々に書いてあった名前。

数日前の出来事が早送りの映像のように目の前を勢いよく流れていく。

それと同時に早くなる鼓動。

翔は、私が彼女の名前を知ってるとは知らないはず。

破裂しそうなほど速いスピードで打ち続ける心臓の音を聞かれないように、私は一歩後ずさりをする。

私は焦る気持ちを隠しながら、横に立つ翔を見上げた。

「……」

しまった、と言いたげなしかめっ面。

「誰ー?」

知らない振りをして声をかける。

私はどこまでバカなんだろう。

「…俺のファンじゃん?」

翔は、さっきのしかめっ面のままおどけて言う。

宅配の兄ちゃんがどうでもいいから早くサインしてくれ、と言いたげな顔で私たちを見ていた。

「これって、受け取り拒否ってできるんでしょ?」

私の言葉に、翔と宅配の兄ちゃんの動きが止まった。

二人とも驚きの表情で私を見つめている。

「受け取り拒否、できるよねぇ?」

私はもう一度、確認するように笑顔で兄ちゃんに声をかけた。

【受け取り拒否】

私がこんなマニアックな事を知ってるのを不思議に思ってるのかも知れない。

私だって知らなかったよ。

運送会社のバイト行くまでは。

宅配の荷物は、届け完了と不在と受け取り拒否で返送ってのが端末入力であって、それをパソコンに入力するバイトを夏にやってたから知識だけは豊富だった。

「受け取り…拒否されますか?」

翔宛ての荷物なのに、この人が決めていいんですか?と不安げな顔で兄ちゃんが呟く。

いいですよ、必要ありませんから。

そう答えようと口を開いた時、「いやいや、もらいます」と翔が差し出された箱を手に取った。

運送屋は、ホッとした安堵の表情で「ありがとうございましたー」と扉を閉める。

私は、隣で引きつった笑顔のままの翔を思いっきり睨みつけて言った。
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