Thank you for...
私たちのクリスマスは、一つの贈り物のせいで無茶苦茶になった。

翔は、今まで見せた事のない冷静さを欠いた私の行動を、抱きしめる形で制する。

翔の腕の中、私は泣く事しか出来なかった。

言葉にできない感情を、ただ泣く事で表していたんだと思う。

床に転がったままのダンボール。

指先から流れ続けた血は、いつの間にか止まっていた。

涙も気が付けば枯れていて、何で泣いていたのかさえ分らなくなるほど、私の心は壊れていた。


「リョウ…ごめん」

「……」

「俺…最低だな……」

振り絞るような翔の声が頭の上から降ってくる。

私はそれに「ううん…」と翔の腕の中で頭を振って答えた。

静けさを取り戻した部屋で、テレビから流れるクリスマス番組の笑い声が場違いのように響き渡る。

私はなんてバカな事やったんだろう…。

次第にクリアになっていく頭の中で、私はひどく後悔をし始めていた。

「…ごめん、なさい」

「リョウが謝ることじゃねーし…」

「でも…プレゼント……」

「…いいよ」

私たちは、小さな声で言葉を交わす。

囁きにも似た、いや、それは二人だけの秘密事のように。

翔は抱きしめる手に力を込めて言った。

「リョウ、俺はスゲー好きだから。バカな事ばっかやって、これからも傷つけるかも知れないけど…結婚…しよう」

俺にはお前しかいないから――。

そう言って、翔は唇を重ねてくる。

私は、それを拒むことなく素直に受け入れた。



結婚しよう。

学生なのに、無理じゃん。

そうやって…また次に好きな人が出来て…私はマユコみたいに捨てられるの…?

優しく、いたわる様に抱かれながら、私はいつになく冷静だった。

愛する人に抱かれる事に、終わりの不安を感じ始めていたんだ。
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