Thank you for...
バカ騒ぎが最高潮に達した時、パーカーのポケットに入れていた携帯がなる。

「もしもしー?」

鳴り響く音楽や騒ぐ声で、片耳を指で押さえながら携帯を耳に押し付ける。

「俺だけどー、ちょっと手伝って」

「ん…?どこにいるの?」

私は携帯を耳に当てたまま辺りをキョロキョロ見渡した。

訳の分らない不恰好な踊りで笑いをとってる奴、酔っ払って寝てる奴、しんみり話し込んでる奴。

どこを探しても翔の姿は見当たらない。

「アキラの車、ランクルの裏の方に真っ直ぐ歩いて来い」

そう言って一方的に切れる電話。

私は渋々、明るいライトを照らし続けている紺のラウンドクルーザーの方へ歩き出す。

ライトの明かりの輪から出ると、そこは別世界だった。

真っ暗な暗闇と波の音。

後ろでは騒ぎ声が聞こえるのに、すごく遠いものに感じてしまう。

一人ぼっちになってしまった、そんな寂しい感覚に襲われた。

…翔を探さなくちゃ。

…さっきから姿が見えなかったけど、何をしてたんだろう?

買い出し?

一人で?

暗闇の中、波打ち際に沿って真っ直ぐ歩きながら考える。

「リョウ、こっち」

暗闇の中、目を凝らすと、人の姿がうっすら視界に入った。

「翔?」

私は声に導かれるよう、その方向に向きを変える。

目の端に、依然盛り上がりをみせる光の輪が小さく映る。

思ったより、歩いてたのかな…。




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