Thank you for...
「こっち、早く」

声に導かれるまま、私は砂を踏みしめて歩く。

「お前、ここから一列担当な」

やっとの事で翔の元へ辿りついた途端、手に長方形の小さなプラスチックの塊を握らされた。

指先で輪郭を確認すると、それはライターで。

「これで、何するの?」

依然、暗闇になれない目をこらしながら翔に声をかけると、翔は自慢げに声を上げた。

「花火だよ。順番に打ち上げて行ったら綺麗じゃね?」

「花火?」

事態がつかめず素っ頓狂な声を上げた私は、目を丸くして驚く。

「バーベキュー、海、と言ったら花火だろ?」

理屈はともかく、子供のように生き生きと準備を進める翔。

市販の花火で、遠く離れた皆から見えるのか少し心配に思う。

「もっと近くがいいんじゃない?」

鼻歌交じりに等間隔で花火を立てていく翔に、私はそっと声をかけた。

「ん?何で?」

「あまり高さが出ないから、きっと気付かれないと思うよ?」

「えー、近かったらサプライズになんないじゃんよ」

「でも、気が付かれなかったらサプライズも…」

そんな私の心配は、翔の「うるせーなぁ」という面倒臭そうな声にかき消されてしまう。

黙って俺に従え、そんな王様みたいな翔の命令。

私は、バレないように肩をすくめると、ハイハイと諦め顔で導火線を確認していった。
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