Thank you for...
ピューーーーッ

ヒューーーーー…シュババババ…


翔の声に合わせて火を放つと、魂を得て飛び立つ鳥のように空高く光が飛び上がる。

それは間近でみると、すごい迫力だった。

3メートルは上がってたんじゃないかな。

私の予想を裏切って、向こうで騒ぐ美里たちの目にも止まった。

花火が吹き上がるごとに歓声が上がる。

私は夢中で導火線に火をともす。

きっと翔は満足そうに笑ってる。

皆にじゃない、翔の喜ぶ顔が見たい一心で、私は導火線を探し続けた。





何分たったのだろう。

連続して鳴り響いた音や明かりは暗闇に吸い込まれ、再び辺りに静寂が訪れた。

辺りには、燃え尽きた花火の筒が散乱している。

目の前は花火の残像で白や黄色、赤といったふうにまだチカチカしていた。

「おもしろかったろ?」

砂浜にしゃがみ込んだ私にかけられる翔の言葉。

私は足元の砂を両手ですくいながら「うん」と短く答える。

「うーんと高く上がるやつ下さいって花火やのオジサンに聞いて買ったからな。最高じゃね?」

「うん、すごかった」

「手伝い、サンキュー」

「…うん」

私は砂を握り締めたまま目を閉じ、波の音と翔の声を交互に聞いていた。

「リョウ?」

「ん?」

目の前に移動してきた声に、私はゆっくり目を開ける。

「ありがと。これからもヨロシク」

目の前にしゃがみこむ翔。

そして私の手を取ると、小さな箱を手の平にそっと乗せた。

右手に乗せられたそれはとても軽くて、しっかり握り締めないと落としてしまいそうなくらいだった。

「…何?」

箱が潰れてしまわないよう、優しく手で包む。

「俺からの気持ちぃってのは大袈裟かな。侘びだよ、侘び」

訳が分らず、私は首を傾げながら箱をそっと振ってみた。


カタカタ…


何だろう?

小さな箱の中で小さく揺れる音。

「中身、何?」

「…内緒」

「なにそれー!!教えてよ!!」

「無くすから部屋に帰って開けろ」

照れ隠しなのか、翔はそれだけ言うと、花火の後片付けを始めてしまった。

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