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「この実習って、恋愛に置き換えても成立するわよね」

すっかり氷が溶けて水滴だらけになったグラスをお絞りで拭きながら美里が言った。

「恋愛に?」

私も思わずペンを止めて顔をあげてしまう。

「主人公Xは、どんな人間か分かんない。でも、いろんな事件や出来事を一つ一つ経験すると、Xの本質が見えてくる、みたいな」

「事件や出来事が、化学反応試験だったり試薬テストだったりってこと?」

「ま、そういう感じね」

「私、だいぶん事件や出来事を経験したけど、翔の本質なんてまだ全然見えないよ?」

「それだけ奥が深いって事じゃない?楽しそうね!レポート書く?」

「書かないっ!」

ロマンチストの美里の説は、結局いつものように笑い話に変わり、場の雰囲気を和ませてくれた。

「ねぇ、この実習が終わったら、気晴らしに旅行行かない?」

旅行?

美里の突然の提案に、私は思わず首を傾げる。

「宮崎のチキン南蛮食べてみたくない?」

「チキン南蛮?どうして?」

「本場なんだって!」

「あ、そうなの」

「行くでしょ?」

「うん、いいよ。宮崎は従姉妹の姉ちゃんも住んでるし、行きたい」

「じゃ、決まりね!」

そう言うと、美里は再びレポート用紙にペンを走らせる。

たまには、彼氏じゃなくて友達と旅行して羽を伸ばすのもいいかもなぁー。

翔は賛成してくれるかな。

そんな事の前に、レポート仕上げなくちゃ…。

私は大きく溜め息を吐くと、美里の半分以下のスピードでペンを走らせる事に専念した。
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