幸せのロウソク
―こんにちは。あの、この前買ったキャンドルが欲しいんですけど、まだ同じものありますか?―

自分でも信じられないほどの、最上級の笑顔と声を出した。

しかし青年の表情は一瞬にして困惑の色に染まった。

―無くなったんですか?―

―いっいえ! もうすぐ切れそうなので、次のを買っておこうかなと―

―そうでしたか…―

青年はそう言うと、視線を棚に向けた。

―残念ですが、あのキャンドルは一つ一つ特別にできていまして、同じものはこの世に二つと無いんです―

―あっ、それじゃ別の形のでも…―

―まことに申し訳ありませんが、お一人様一点限りになっているんですよ―

―えっ、そうなんですか―

青年には揺るがない意志があるようだ。

しかしふと表情を和らげた。

―しかしもし、キャンドルが溶けて無くなり、その溶けたロウソクを当店へお持ちいただければ、また新品をお売りいたします―

溶けて原型が無くなったキャンドルを証拠品に持って来いと言うことか。

おかしな話だが、この店のやり方ならば仕方ない。

―わかりました。それじゃまた来ます―

頭を下げて帰ろうとした時、呼び止められた。
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