世界で一番嫌いな君へ
「なん・・・」
「覚えて・・・無い?」
そんな風に言われれば、どこかで見た事があるような気になる。
だけどそれだけではないような気がした。
言い様のない不安が私の胸を揺らすものだから、更に戸惑う。
何、これはどう言う気持ち?
恐い・・・?なんで?
「だれ?」
無意識に寄せた眉間の皺も、警戒心しかない言い方も、気にしていないみたい。
勿体つける事もせず、不自然なくらい自然に、彼は自分の名を告げた。
「佐久間伊織」
聴いた瞬間、理解するよりも早く全身の血が足に向かって落ちていく。
二度と聞く事もないだろうと、聞きたくもないと思った名前。
何も言わずに振り払った手は宙を舞い、その行き先の確認もせず背を向けてまた必死に地面を蹴る。
何か言われた気がしたけれど、心臓があまりにも煩くてそれ所ではなかった。