They are going out
 記憶の冒頭シーンからお話いたしましょう。

 桜色眩しい花弁が舞う、少し強めの風が吹く始業式。

 式典から部活動へと体育館は模様を替えて、次第に人影も減っていく。

 まだ日が落ちるまでには時間はありすぎるくらいの、新学期一日目。

 そんな校舎の中、私はただ歩いていた。

 別にヒマ人…ってわけではないのだけれど。

 窓から見える青空は、ありきたりな表現を使うと「まるで額縁にはいった絵のよう」に美しく…でもボキャブラリーの少ない最近の高校生に言わせれば「綺麗」の二文字、もしくは「キレイ」の三文字で終わりそうな色で、私の頭上高く高く構えている。

 あぁ…やっぱりヒマだ。

 それなら、と私はなんとなく教室に足を向けた。

 もちろんのこと、私の新しいクラスに。

 その三年G組の前まで来ると、なんとなく躊躇しながら、その中を覗いてみた。

 ドアの小窓から、風になびくカーテンと黒髪が見えて。それから、二つ見えた影が、そう…ひとつに重なった。

 ――ふぅ。放課後デート、ってわけね。

 そう勝手に納得してその場を立ち去ろうとした私は、直感的にもう一度、教室の中を覗いた。

 そして、凝視した。
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