They are going out
   *

 音楽準備室での話からトイレでの談話、それ以前まで時はさかのぼり、場所は一階に下りる。

 雲の切れ間からこぼれる光が差し込む、三年G組の教室。

 ドアはもちろん閉まっている。

 始業式の放課後で、部活動以外の生徒はほぼ下校。

 教室は空の箱と化している。

 その中身が、二人。

 3年G組担任・市原美紀(28)と副担任・新垣徹(37)である。

 風に揺れるカーテンに長い黒髪を絡ませながら、美紀はため息をつく。

 徹が口を開いた。

 「…相談って、何?どうしたのよ美紀さん」

 美紀は結婚するまでは、若いこともあってか男性教師の人気の的だった。

 体育科でも誰々がデートに誘った、とかいう噂も聞いた。

 藤谷先生との一件も有名だ。個人的にも仲が悪いわけじゃない。

 その美紀が自分に相談があるという。いったい何なのだろう。

 「わたし、結婚して一年とちょっとが経ったんです」

 淡々と美紀が喋り出した。

 徹は黙って聞いている。

 「結婚する前に、今の同居人…彼の事がすっごく嫌いになったんです」

 美紀は夫のことを『同居人』と言う。

 そして少しずつ、喋る様子が変わってくる。

 徹はうん、と頷く。…頷くしかないしな。

 「でも、その時はちゃんと話し合って。お互いをきちんと理解したうえで、結婚したんです」

 言いながら、美紀は次第に徹のほうへ寄ってきた。

 徹にとっては予想外のこの状態。いや、心の底では予想してたかも…。

 美紀は続ける。

 「でもわたしたち、…やっぱりダメかもしれない」

 突然、美紀が顔を下に向けた。

 長い髪の毛が前に流れて、顔がよく見えない。

 泣いてるのだろうか?

 …参ったな…。

 正直そう思ったところに、美紀の言葉がすすり泣きと共に突き刺さった。

 「わたし、寂しいの」

 ああああああああ・・・・・・。
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