They are going out
 ――それは秘密の約束。

 温習室の古い机を椅子代わりにして座る、美紀と徹。

 見るも鮮やかに汚れを作っている絵の具が少し気になるが、たいして気にもせず、美紀はロングスカートで隠れた下半身を机の上に置いた。

ほんの少しの隙間からちら見えする生足は、男の気持ちを高ぶらせるアイテムだ。

 「…昨日同居人が、久しぶりに仲良くしてくれたんです」

 美紀が口を開いた。

 同居人とは夫のことだ。

 ちょっと口元に笑みを浮かべて。

 そして徹の顔を上目遣いに見つめる。

 「ご報告、ですか」

 徹が返した。

 こちらは少し不満気味に、美紀の目線から自分の顔を退かそうとする。

 そんなこと話すために、俺を呼んだのか。

 「はい、でも」

 美紀は後ろを振り返りドアの小窓から廊下を覗いたが、人の有無をたいして確かめもせず続けた。

 「わたしは今のこの時間のほうが楽しいかな」

 囁くようにそう言って、徹のほうを向く。

 耳につく彼女の声の余韻を、不思議なくらいリフレインさせながら、徹は訊く。

 「ホントに?」

 そして、我慢の利かない利き腕が美紀を押さえつける。

 女性の囁きは、まるで魔法だ。

 徹の背後にあるカーテンを引きながら、美紀はいつものようにほくそ笑む。

 そして答える。

 「ええ。」

 その声を聞いたが最後、徹は両手を美紀の体に絡ませ、二人は『重なる影』のシーンに突入していくのだった。            
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