They are going out
   *

 「このままにしておいていいんすかね」

 美紀の目線がこちらの覗き穴であるドアの小窓に来たときは少し寿命が縮んだが、あたしは廊下で忍者のように息を詰め、三島に訊いてみた。

 「…やぁ、どうしようもないでしょうから…」

 三島もそうは言いながらも、まじまじと例の二人を見ていた。

 そう、ラブラブなカップルの諸事情は、周囲の人間にはどうしようもないことなのである。

 現に内田紗有と関貴臣の教員カップルは、既に学校中の公認であったが、彼女たちのバカップルぶりには他の先生方も(もちろん生徒も)どうしようもないようだ。

 やだなぁ、あんなのが従姉なんて。

 あれ、そういえば従姉の旦那って、あたしにとってどういうつながりになるんだっけ?

 ……。

 …………。

 ………………話ずれてるな…。

 「ねぇ、そろそろ退散しないと、覗いてるのバレるんじゃない?」

 これ以上見ていても意味がないと思ったのか、それともただ飽きただけなのか、三島はそう言う。

 「あたし、部活行きたいんだけど」

 あ、どっちもハズレなわけね。

 三島はよほど卓球がしたいのか、その場で素振りもどきを始めた。

 これ以上見ていても、三島の機嫌が悪くなるだけだ。

 しょうがない。中の二人より早く終了とするか。

 「じゃあ、このままにしといていいんですね?」

 あたしがそう言って三島の顔を見上げると、彼女は頷きもせずにその場を立ち去った。

 でもこちらを気にしてか、何度も振り返っている。

 ――ホントはあんただってずっと見てたいんじゃないの?
 と、小声で言うと、数十メートル先から三島のお仕置きチョップが飛んできた。

 地獄耳って、実に恐ろしい。

 あ、今度は三島に聞こえませんように。

 心の底から願って(笑)、彼女の後ろ姿を見送った。

 そして、もうしばらく、あたしの視線は温習室の中へと注がれるのであった。
 
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