They are going out
   *                

 再び温習室。

 『重なる影』のシーンは順調に進んでいた。

 徹の指にだんだんと力が込められ、美紀へと熱が伝わってくる。

 誰かに見られたら、なんてことは一切考えない。

 二人は徐々に距離を縮め、その唇までをも重ねようとしていた。

 あとほんの少し、舌を出したら届きそうな隙間。

 ほら……。

 その時である。

 「ねぇ、やっぱりやめておきましょう」

 美紀が突然、徹の顔を跳ね除け、腕を振りきった。

 「どうして」

 跳ね除けられた顔を再度くっつけようと、徹は美紀を見つめる。

 「だって…」

 答えに詰まった美紀は、狭い四角い部屋をぐるりと見回し、ため息をついてこう言った。

 「気になるんですもの、このギャラリーが」


 ギャラリーが。

 ギャラリーが。

 ギャラリーが。

 そう、このギャラリー。


 温習室、二人の周りを取り囲んでいたのは、おぞましき数の白い人。

 そう、美術デッサン用の、石膏像。

 この部屋には隣りの美術室に置ききれない石膏像が、無造作に並べてあるのだった。

 「なんかここ、すっごい恥ずかしい気がするんですよね。場所変えましょう」

 ……。

 徹の心情は、まさにある種の敗北感でいっぱいだった。

 この俺が、鍛え上げたボディと日焼けした肌がマブいこの俺が…

 あんな白い石膏像ごときに負けるだなんて!

 一足先に美紀が部屋を出てしまうと、徹はがばっとヴィーナス像に抱きついてため息をついた。


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