They are going out
   *

 生徒相談室には鍵がかかっていた。

 案の定、美紀はそこに立っていた。

 ドアノブから手を放すとため息をひとつついて、美紀は方向転換しようと思った。

 その背後に大きな影が被さり、ドアの鍵穴へ長い腕が伸びる。

 彼はいた。

 「何の用?」

 言っていて答えがもうわかっているかのように進藤が言った。

 他の男を焦らせておきながら、この男には焦らされる。

 我慢は身体に毒だわ。

 鍵を開ける進藤のもう一方の手を自分の腰に運び、美紀は言う。

 「わかってるくせに。メール見たんでしょう?」

 鍵を開け終わった進藤の両手を自分の身体と密着させて、美紀は部屋の中に入った。

 狭く、おかしな形をした相談室。もちろん、いるのは二人だけ。

 「新しい獲物の所には行かないのか?」

 進藤は皮肉を少し交えてそう言いながら、カーテンが閉まっていることを確認し、今開けた鍵を内側から閉めた。

 美紀は答える。

 「今日あの人お休みよ」

 言いながら美紀はやっと進藤の方を向いた。

 新しい獲物…徹の顔を一瞬思い出したがすぐに脳裏から消し、進藤の顔を見て、彼の眼鏡を外す。

 進藤は、今度は自分から美紀に密着する。

 お互いの体温がお互いを伝わりあう。

 「わたし疲れてるの」

 美紀はまたそっぽを向く。

 焦らされるのは嫌。

 自分から焦らすのでなくちゃ。

 「知ってる、メール読んだ」

 進藤は美紀の髪をなでた。

 そっと、自分の指に黒髪を絡ませて。

 長く黒い、艶めいた髪。

 でも黒は、堕天使の色。

 そして、悪魔の色。

 この指は、悪魔の罠にかかっている。

 もう戻れない――お互いに。

 「…チャイムが鳴る前には戻るわ」

 美紀はそう言うと、進藤の腕の中から彼の顔を見上げた。

 もう待てない。

 そしてキスをする。

 そのまましばらく、時間を止めたかのように二人は唇を重ね合わせていた。

 まるで写真のように。

 二人の時間とは対照的に、時計は刻々と時間を進めていた。
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