They are going out
 「先生、文実の藤谷先生と直接話してみれば?」

 誰からともなく、こんな言葉が飛んだ。

 「えっ」

 美紀は止まった。

 それも、すんごい勢いで嫌ぁーな顔になって。

 この珍しい光景に、しばらく周りも一緒に止まっていると、美紀がボソッと言
った。

 「わたし、あの先生と話するの嫌なんだよねぇ」

 ホンッッットに嫌そうな顔で言う美紀。

 「何でですかぁ?」

 わざとらしく聞く奈緒ちゃんに、あたしたち生徒は笑いをこらえ切れない。

 美紀と藤谷って言ったら、例の噂しかないだろう。

 そう、あのダイエッター藤谷恋愛事件。

 美紀は言う。

 「だってあの先生…」

 一息入れると同時に、一段と嫌そうな顔になって続ける。

 「わたしが何か言うと『どうして怒ってるんですか』って言うのよ」

 もうこらえ切れない。あたしたちは吹き出した。

 あの藤谷のスケベったらしい顔と、美紀の不機嫌な顔の両方を頭に浮かべてみ
ると、もう笑うしかない。

 大爆笑だ。

 美紀は続ける。

 「怒ってなんかいませんよ、って言うと『僕、なんか悪いことしましたか?』
って言うのよ、あの人」

 もうみんな暴れながら笑っている。

 ウケるなんてもんじゃない。

 腹がよじれそう。

 そんなあたしたちとは対照的に、美紀はふくっれつらで言う。

 「だぁから嫌なのぉ」

 藤谷バンザイ!…とまではいかないが、奴のおかげで思いっきり笑わせてもらった。

 どうやら奴は美紀にフラれたことを、未だに根に持っているらしい。

 じゃ、美紀を藤谷のところへ送り込むのは危険…だよな。
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