They are going out
   *

 着任式を終えたところでまずは肩の荷が軽くなった、とこれからの自分の巣である音楽準備室のソファーにどっかりと。

 そう、どっかりと。

 さっきまでの営業用お嬢様スマイルを地上四階の窓の外に投げ捨てた彼女は、大股を大っぴろげて座り込んだ。

 そして思いきり、いや、思いっきり伸びをする。

 全校の皆さん、これがかわいい(と世間の人は思うらしい。現に男子生徒は騒いでいた。くそぉ。)新任教師の化けの皮がはがれた姿です。とでも言いたくなるような変わりっぷり。

 人様にはとても見せられないわ。

 そんなあたしの従姉、内田紗有が先ほど浸っていた、こっ恥ずかしいポエムを聴かされていたのは、あたしと一緒に幼稚園の頃から紗有の子分にされていた二人、手塚実乃里と柏尾優太だった。

 「紗有さん変わんないね…」

 明らかにあきれている実乃里―ミーちゃんと柏尾を横目に、紗有はどうもまだ自分の世界に浸っていると見える。

 目の上にハートマークが飛んでいるようだ。

 「ねぇ、今日家まで送ってってくれるんでしょ?」

 約束を確かめようと聞いても、まだ彼女の意識は飛んでいる。

 このために三島先生との話を断ち切って走ってきたというのに。

 「…何があったの?」

 あたしは柏尾に聞いた。柏尾はミーちゃんに聞いてくれとばかりに視線を彼女のほうに向ける。

 「LOVE実現だって」


< 7 / 45 >

この作品をシェア

pagetop