a girl as a dool
「あ」
始業式の間、ずっと彼女を観察していた俺。
彼女のある部分を見て、思わず声をあげてしまった。
ブレザーからわずかにはみ出したシャツの左の袖口に付着した、カラーリングの液。
俺の声に反応した彼女は、相変わらず表情を変えずにただ俺に視線を送る。
「あ、いや。袖汚しちゃったなって」
躊躇いがちに言った俺に、彼女は驚きもせずに言う。
「大丈夫でしょ、これくらい。シャツなんて代わりあるし」
それだけ言うと、彼女はまた前を向いた。
「や、でも…」
詫びくらい入れようと口を開いた俺に、視線を変えずに彼女は言う。
「大丈夫だから」
その声があまりにも冷たくて。
俺はまるで二人の間に衝立を立てられたかのように感じた。
二人の距離は変わってないのに、何だか離れてしまったように。