a girl as a dool
見間違いじゃない。
目の前の女の左手の薬指に光る、シルバーリング。
綺麗な手や指に何の違和感もなくはめられている。
思わず凝視してしまう俺に、彼女が怪訝そうな視線を送る。
「早く拾いなよ」
呆れたように言う彼女の声はしっかり耳に入ってきているのに。
俺はただ呆然とするだけ。
渡邊茉央に彼氏?
こんな可愛げない奴に?
いや、それどころかこいつ人間らしささえねぇよ。
とにかく頭の中は混乱していくばかりで、それでも何とか資料を拾う。
「なぁ、お前彼氏いるの?」
気づいたら口から出ていた不躾な言葉。
やばい、と慌てて口をつぐんだけどもう遅くて。
不機嫌そうな顔の渡邊茉央が俺を見る。
「そんなのいないよ」
呆れたようにそう言って、拾い上げた資料を再び机の上に重ねる。
「じゃぁ、その指輪は?」
作業に戻る彼女の指にはしっかり指輪がはまっていて。
納得いかない俺はまた懲りずに質問する。
「お守り」
彼女がぼそっと答える。
「何?男避け?」
身を乗り出して聞き出す俺に、彼女は視線を反らして答えた。
「だから、お守りだってば」