a girl as a dool
指輪を俺の視線から遮るように右手を添えて、彼女が俯く。
少しだけ見えた彼女の表情は、いつもと同じように見えた。
けど、瞳には哀しみが映っていた気がした。
「てか早く終わらせようよ」
いつもの口調に戻った渡邊茉央が、顔を上げて資料作りを促す。
作業が進まないことに苛立っているような表情。
だけど何だか、関わらないで、と訴えかけられているように感じてしまった。
「そだな。遅くなったら家の人心配するだろ?」
俺も無理矢理いつもの調子に戻して、明るく振る舞う。
「…うん」
歯切れの悪い返答も、いつも通り。
それからは二人、ただひたすらに作業に打ち込んだ。
もちろん黙って。
この時の俺は自分の気持ちにも目を背けてたし、
自分が傷付くことを恐れてた。
彼女の傷に触れないことが彼女のためだと自分に言い聞かせながら、
本当は向き合って自分が傷付くのを防いでた。