貴方と居た時間。
「な、何か今日元気なかったしさ、…ん゛ー、まぁ、その心配なの!」


そう言いながら啓太は知佳の頭にポンポンと軽く触れた。
顔が赤いように見えた。
だが、それは自分が勝手に都合の良いように、解釈してるだけだと知佳は無理矢理に考えを消した。

そう思いながらも、知佳の心臓はトクン、トクンと音を立てていた。


「店長、ありがとうごさいます。」

「うん。帰りついたら俺も高村さんの登録したいから、メールくれな。じゃ、気を付けてな。」


啓太の優しい目が、優しい声が、知佳の啓太への想いを募らせる。
知佳は店を出ると、バッグから紙を取りだし見つめた。
男の人にしては、可愛らしい字だった。

失恋したことに変わりはないのだが、何故か知佳の心は少し癒されていた。

啓太の字を指でなぞり、
そしてそっと紙にキスをした。




―ねえ、啓太。


あの日、どんな気持ちでこの紙を渡してくれた?


どんな想いで、私に触れた?


この出来事がなければ、私はすぐに貴方の事を諦められたのかな?

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