貴方と居た時間。
だが、知佳にとっては大切な時間だった。
啓太と過ごせる唯一の場所。
バイトの一日一日が宝物のようにさえ思えた。


「次の日試験なのに、それでも何も言わずバイト入ってくれるよな。高村さんのおかげで店は大助かり。」


啓太は微笑む。


「そんな…。でも、そう言ってもらえたら、私も嬉しいです。」


「俺、高村さんがバイトの日って一番楽しみ。あ〜早く来ねえかなって(笑)」


啓太の言葉に知佳の胸がキュッとなる。
心地よい息苦しさが知佳を支配していた。
啓太に触れたい。
そんな想いでいっぱいだった。


「私もバイト楽しみです。店長に会えるから。今日はあれ話そうとか、これ話そうとか、自転車こぎながらワクワクしたりして…」


啓太が知佳の方を向いた。
知佳も啓太の方を向く。


知佳は啓太から目が離せなかった。

啓太が知佳を抱き寄せたのは、それから数秒後の事だった。


知佳は今啓太の胸に顔をうずめている事が、現実なのか夢なのか、分からなかった。


ただ、啓太の胸の鼓動が心地よく、知佳の耳に響いていた。


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