貴方と居た時間。
「高村さん、おはようございます。」


大学生の田本は伸びきった髪に、眼鏡をかけ、いかにも真面目だけが取り柄のような、そんな男だった。


「おはよう、田本くん。」


挨拶を交わし、知佳は啓太に頼まれた仕事を始めた。
田本は丁寧な手つきで、おでんの仕込みをしている。


いつ聞こうか…。
仕事をしながらも、知佳の頭は啓太の事でいっぱいだった。




午後四時。
知佳は米飯の検品をする為、スタッフルームへと入った。
パソコンとにらめっこしている啓太の後ろ姿。
その広い背中に知佳は触れたいといつも思う。
そんな思いを無理矢理頭から消し、検品作業を始めた。


「そういえばさぁ…」


突然啓太が口を開いた。
知佳はバッと啓太の方を向く。


「最近どう?良い出逢いはあった?」


啓太がニヤリとしながら知佳に聞いた。
予想外の質問に知佳は動揺した。

「で、出逢いですか?そんなの…ないですよ。」


今まさに想いを寄せている相手が目の前に居るのに、隠さなければいけない事が、知佳は苦しく感じた。


「そっか。」


啓太は、なーんだ、と言うような表情でタバコに火をつけた。
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