君色
B組の前を通りすがった時、無意識に教室を覗く私。
美幸が唇の端を小さく持ち上げて皮肉な微笑をくれた。
「旦那さんはいましたかぁ?今日は理香、珍しく髪巻いて気合入ってるし、見てもらいたいのかな?むふふ」
不気味な笑い声を強調気味に零す美幸。
何て憎たらしい友人だろう。
B組の前を通る一瞬、雅史の笑顔を探すのが好きだった。
雅史はいつも笑ってる。
本当にいつもいつも馬鹿みたいに笑ってるんだ。
恋人とはロマンチックな雰囲気を楽しみたいとか
たまにはのんびり穏やかなデートをしたいなんて思うこともあるけれど
雅史と2人でいる時はいつも、馬鹿みたいなことを言う彼とひたすら笑ってばっかりだ。
けれどそれが今一番私にとって楽しかった。
馬鹿みたいに笑って、馬鹿みたいにはしゃいで、馬鹿みたいに喧嘩して
それが唯一辛い事も苦しい事も忘れられる一瞬だった。
「……まぁ、いなかったけどね」
雅史はまだ登校していないようだった。
寝坊がちな彼を心配して携帯電話の中から彼の名前を探した。
そのまま発信ボタンに手を掛ける。
教室に入りふと何気なく顔を上げると、私の机の隣の席に雅史が着席していた。
慌てて電源ボタンを連打して携帯を鞄にしまう。
はっとして隣の美幸を見るとまた何か言いたげににやつき、こっちを見ていた。
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