君色
学園講堂での校長先生による形式的な新年の挨拶と新学期の意気込みをさらりと聞き流した。
それだけで肩が凝ってしまうのに、教室に戻ったら次は担任のくだらない冬の思い出話が始まってしまった。
この教室にいる生徒の内誰一人興味が無いだろう。
あくびを抑えながら肘をついて黒板の隣の時計に目をやると、視界の隅に廊下で元気よく飛び跳ねる青年が映った。
「ま………っ」
雅史が教室の後ろの戸を小さく開けてそこから無理やり顔を押し込む。
さっきから廊下が騒がしいと思っていたのだが、どうやら雅史のクラスのホームルームはもう終わったようだ。
私を笑わせようと必死に顔だけ戸から突き出し、おもしろい顔を作ってみせる。
静かな教室に私のわざとらしい咳が響いた。
雅史がいるだけで、私のいる世界はこんなにも温かくなるんだ。
いつもそうやって笑っていて。
それだけで私も不思議なくらい幸せな気持ちになれるんだ。
ただ
戸のすぐ近くの席の女子が視線を教壇から逸らした瞬間に戸に挟まった雅史の存在に気付いて小さく悲鳴を上げたから
後で彼女にしっかり謝らせないといけないな、
なんて考えながら私は窓の外の空を見上げた。
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