君色
君のいない世界
「今日は随分寒いね、とりあえずカフェでも入ろっか」
男は女の肩にそっと手を回し、そのまま室内へ促す。
肩に触れるしなやかな指先が冷たい空気にさらされて、痛々しいのにどこか儚く美しかった。
「理香、コート」
一言そう言って女の背後に立ち、白のコートを優しく脱がせる。
女はただ言葉に従うようにぎこちなく、けれど繊細にコートを剥がされ、男がそれを店員に渡すのを見届けて奥の席に着いた。
暖かい店内で、冷え切った身体がすぐに暖められる。
待つ間も無く出されたカップに揺れるは、女の好きな甘いココアだった。
「先生、今日はね、話したいことがあったんだ」
理香は俯いて小さな声でそう伝える。
男は何も言わなかった。
「ココア、冷えるよ」
少しの沈黙を漸く破って男が発した言葉。
理香は咄嗟にココアのカップを持ち上げようとする。
慌てたせいで、熱されたカップの飲み口から零れた液体で指を濡らした。
「熱っ」
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