君色



「理香……泣かないで、どうして泣いてるの」



先生が泣いている。


先生は笑っているのに、大粒の涙がただ頬を伝うこともなく重力に逆らわず足元に落ちていった。


初めて見る先生の涙。


雅史は、私と喧嘩する度によく泣いた。


2人で泣いて、その後はきまって2人で笑った。


雅史とは違う。


先生は泣いたりしないんだ。


大人で、真面目で、クールな先生。


先生が泣いたりするわけない。


「理香、お願いだから、泣かないで……」


先生が両の手の平で私の濡れた頬を覆う。

自然と見詰め合う形になって、私は先生の目を見た。


先生


先生の授業を初めて受けた日


あの日から


私の心は先生だけのものだった。



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