モノクロ
「どっ、どうしたの?」


立ったまま、壁に背中を押し付けられた。


「せっかくきれいにしてんのに、何で泣いてんの?」


「ちがっ……」

「じゃあ、これは何?」


両手を掴み壁に押し付けて自由を奪うと、涙の溜まった目尻に唇を寄せた。


「た、たまねぎが……!」

「そんなモン、なかったけど?」


そんな苦しい言い訳が圭吾に通用するわけもなく……。


「真央。ちゃんと話して」

圭吾は少し屈んで私と目線を合わせた。


「違うっ……何でもない。違うのっ」


だけど、言葉と一緒に溢れてしまった涙が止まらない。


「真央」

押し付けられた手が解放され、ふわっと抱き締められた。


「無理するなって言っただろ?」

抱き締められ、頭を撫でられて、圭吾の心臓の鼓動を聞いてたら、少しずつだけど落ち着いてきた。


圭吾は今、ここにいるんだし、過去だってもちろんある。


あの人が圭吾とどんな関係かはわからないけど、そんなことにいちいち反応していたら、きっとこの先もたないだろう。



圭吾を信じる。

圭吾を好きでいる。



私には、これしかないんだから。
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