モノクロ
「……はい?」

琢磨とは別の方向から聞こえて来た声に振り返ると……そこには久我先生が立っていた。


「ちょっと、いいか?」

いきなり呼び出されるようなことしたっけ?

……あ、家の事情、とかかも。


「ごめん琢磨。……急ぎ?」

「いや。……下で、待ってる」

「ん、わかった」


琢磨に背を向けて、久我先生の後をついていった。


入った場所は化学室の隣にある準備室。


同じ三階にあるけど、普通の教室とはずいぶん離れた場所にそれはあった。


そう言えば、担当教科は化学だったっけ。


入ると、中には誰もいなかった。


棚にきれいに並べられた実験機材を眺めながら後について奥へ進むと、小さなコンロの前で先生が振り返った。


「コーヒーでも飲むか?」

「……いいんですか?」

「今日は特別だ」


高校の先生ってこんなモンなんだろうか……?

中学だったら考えられない。


……もしかして、いきなり狙われてる、とか?


そんな自意識過剰な想像をしていたら、コトン、とカップがテーブルに置かれた。


「砂糖とミルク、これな。まぁ座れよ」

「……ありがとう、ございます」


先生は窓際に立っていて、私は少し離れた場所に座って、それらに手をつけることもなくコーヒーを一口飲んだ。


あ、意外とおいしいじゃん。

コーヒーをおいしいと思ったのも久しぶりだった。


……高校生になって、日常を取り戻して、こうやって両親がいないことにも慣れていくのかもしれない。


コーヒーに映る自分を見ながらそんなことを思っていたら、



「昨日はどーも」

なんて言葉が聞こえた。
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