モノクロ
…………。
カップから顔を上げて、そう言った先生の顔をじっと見た。
きっとマンガにしたら、私の頭の上には“?”が浮かんでいると思う。
“昨日はどーも”?
?マークを浮かべたままの私の顔を見ながら、先生は大きくため息をついて、それからとんでもない一言を放った。
「昨日のことなのにもう忘れてんのかよ、“マイ”」
“マイ”って──。
穴が開く程見つめていたと思う。
後ろに流された黒髪が、頭の中でだんだんサラサラになって、それが黒い瞳にかかって……メガネがなくなって……。
「…………はあああ!? あん……たっ」
立ち上がった瞬間、座っていた丸イスが大きな音を立てて後ろに倒れた。
持っていたカップを落とすかと思った。
っていうか、ここが奥まった場所で良かった。
それくらい、私は大きな声を出していた……と思うくらい驚いた。
「ケン……ジ!?」
「初めて呼ばれたし。つーか落ち着け。もうちょい声落とせ」
相当テンパってたんだろう。
いや、テンパってるけどさ。
ククッと笑いながらケンジ……じゃない、久我先生は静かに立ち上がった。
「普通、気付くだろ」
そう言ってそれから、後ろに転がったままのイスを起こし、私の両肩に手を置いてそこに座らせた。