モノクロ
「高岡」

そう言って貴文くんは人差し指で私を呼び寄せた。


「ん?」


内緒話をするみたいに口元に手を添えたから、私も耳を近付けた。



「久我と、何かあんの?」

「えっ!?」


貴文くんが小声で言ったって、私が大声で返事したんじゃ意味がない。


「真央? どうしたの?」

いきなり大声出したんだもん、びっくりするよね。


遥がきょとんとした顔をしながら振り返った。


「なっ、何でもないっ」


バスの中にいるみんなの視線を感じて、身を隠すように座席に深く沈み込んだ。


貴文くんは隣で肩を震わせてクスクス笑ってる。



「いきなりヘンなこと言わないでよ……」


貴文くんが悪いわけじゃないのに、つい睨むような目で見てしまう。



「動揺するとバレるよ?」

「何もないってば……」


どうして貴文くんはそんな風に思ったんだろう。


前の方に先生が座ってるけど、背中しか見えない。


“感情は外に出した方がいいぞ”


ふいに、この前言われたセリフが蘇ってきた。


元々、どちらかと言えば感情を隠すことは苦手なタイプ。


……外に出まくりだよ。




着いた先は高原のホテルだ。


近くには川もあって、事前に決めた班で周辺を散策する時間なんかもある。
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