冬とサンダル
日曜の電話〜2009年〜
日曜の午後、私が大好きな時間。ゆっくり流れていく時を感じながら、のんびり、明日からの一週間を思い描く。特に特別なことがなくても、だからこそ、平和を感じる。

でもその平和なんて所詮、脆いガラスのようなもので出来ていて、ちょっと乱暴に扱うだけで簡単に壊れてしまう。


家の平和を壊したのは、日曜の午後の電話だった。ゆっくりとした時間はいとも簡単に崩されたのだ。



家には家族が三人いる。母と妹とそして、私。
完全な女系家族。母はシングルマザーとして、娘二人を立派に育ててくれた。私は今、19歳。妹は15歳。
母は今年で44になる。いつの間にか、私は大人になっていた。

父の記憶は殆どない。
私が小学校に上がる前に離婚したから、ぼんやりとしか覚えてないのだ。
妹はきっと、顔も思い出せないだろう。


日曜の午後は、たいてい私は家で留守番をしてる。
母は仕事で呼び出され、妹は受験生だ。

私はというと…
とりあえず仕事はしてる。けど、やりたいこととは違う。夢と現実の距離ってこんなにも離れていたのかって、立ち尽くしている最中。お手上げ。そんな、時期。でも大丈夫。私は楽観的だから。なんとかなる、とどこかで信じてる。根拠のない自信と、無意味なプライドだけは誰にも負けない。


で、そんな訳だから私はリビングのソファーに一人、何をするでもなく座っていた。
現実味のない刑事ドラマを横目で見ながら、半分夢の世界にいたのかもしれない。


突然の電話で、私の身体は一瞬跳ねた。居眠りしてて、机から肘が落ちた時みたいに。悪夢から醒めた時みたいに。

鳴り止まない電話。まだ怠い身体と頭を抱えながら、のそのそと受話器を取った。

「はい、高遠ですが。」


「あ〜もしもし?高遠さんのお宅で間違いないでしょうか。」

受話器の向こうの声は、私が言ったことをそのまま繰り返した。低く、妙な訛りのある声で。

「はい、そうですけど?」

私は少し苛々して、語尾が上がる。同じ事を繰り返してる時間なんてないのだ。若い私には。


「今村さんのこと、ご存知ですよね。」


身体が強張る。懐かしい匂いがした。黄色いひまわり畑。笑い声。


今村真也−−もう聞くことも口に出すこともないと思ってた名前。
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