耳元で囁いて
「うん。」
彼は悲しそうな顔をしていた。
ごめんね...山中君。
でも、聞いてしまったら...もっと、キミを傷つける。
だって、私は絶対にキミの気持ちには答えられないんだから。
だから、
聞きたくない。
聞きたくない。
困るから、怖いから、
傷つけてしまうから。
私は、教室に戻ろうと体の向きを変えた瞬間に
「橘さん!!」
大声で呼ばれて前に進もうとしていた足は止まった。
「な...何?」
私は後ろを向かずに...いや、向けずに前を向いたまま言った。
「...名前...覚えておいてね。」
「....うん。」
私はそれだけ聞くとまた、走りだした。