耳元で囁いて
「や、山中君は偶然話しかけられただけだよ。」
「...ほんと?何もない?」
止めてよ...そんな目で見ないで。
「本当だよ!!信じて。」
私が力強く南に訴えた。すると、南の瞳からは怖さが消えた。
「...良かった、良かった、良かった。」
彼は私に力無く抱きついて何度も良かったと言った。
「ちょっ、ここ廊下。」
「もう少し、もう少しだけ。」
そう言う彼がなんだか小さく見えた。
幸い、人が居なかったから良かったけど。
「旭。」
「ん?」
「俺から...離れていかないでくれよ?」
南は抱きついていた手の力をさらに強めた。
私も答えるように、強く南を抱きしめた。
「愛してるよ...南。」
「うん、俺も愛してる。」
気づかなかった。
この言葉で、南を歪めていたなんて。
南が...あんなにも、嫉妬深い人間なんて。
知らなかった。