短編集『固茹玉子』
「俺が必ず助け出す」

そして俺は、自分に言い聞かせるようにまた呟く。その言葉は、極限状態に置かれて疲弊し切った身体を奮い立たせた。

頑丈そうな塀に取り囲まれた邸宅だが、案外侵入は容易い筈だ。

ここに見切りを付けてからというもの、いつかはこういう機会が来るかも知れないと、秘かに調査をしていたのだ。

角の電柱を登ると、邸内から生えている大木に跳び移れる。そして母屋の勝手口は貧相な造りだから、この回し引き(細いノコギリ)さえ有れば鍵を開けるのは簡単だ。


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