短編集『固茹玉子』
ここはまさに行き止まり。俺に残されたのは如何に綺麗な死に花を咲かせられるかという選択肢だけだ。

  !……!

ヤツが悪態を吐(ツ)いている。

澱んだこの空気は、換気扇が回っていないからなのだろう。

気配を殺し、什器の陰からヤツを窺うと、その瞳に爛々と闘志を燃やし、尚も俺を亡きものにせんとして息巻いている。右手に懐中電灯、左手にヤツ特有のエモノを持って。

  ギラリ

ヤツのエモノはさも得意気に、歯を見せて笑った。


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