短編集『固茹玉子』
「行ってしまうのね」

こちらを振り向きもせずにソフィは言った。俺も物言わぬまま、少ない荷物をカバンに詰め込む。

壁に貼ってあるボギーのポスターだけが、静かに俺達を見詰めていた。

「私は貴方にとってなんだったの?」

肩を震わせてソフィが聞く。その表情は窺えないが、恐らくまたしわくちゃな顔で涙を堪えている筈だ。

「お前と過ごしたこの数ヶ月は、俺の記憶の中で決して色褪せない思い出になるだろうさ」

質問には答えず、そう返すと俺は部屋を後にした。


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