短編集『固茹玉子』
その表情は物の怪の取り憑いた形相が如く、既に人のそれとは言えない程、怨念のこもった顔だった。

「忘れもしない5年前……」

5年……そうだ。覚醒剤の売人を殺す依頼の時、立ちはだかって来た少女を誤って刺してしまったんだ。

何ヵ月も意識不明だったという少女こそが彼女……。

「君はあの時の」

「同じ苦しみを貴方にも味わって貰うわ」

  プシュ

肋骨の間から差し込まれたカッターの刃は肺に達し、俺から溢れ出る鮮血は彼女を真っ赤に染めていく。


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