短編集『固茹玉子』
「あーあ」

 改めて溜め息をつき、少しひらけた方を見やると、強めの風に煽られるカーテンか、極地に妖しく揺らめくオーロラのように、雨で出来たヴェールがクネクネと移動していた。

「洗車機じゃないんだから」

 その激しい水しぶきを見て、また冗談めかしに呟いてみても、俺の心はこの空と同じように晴れる気配さえ見せなかった。

 ビカビカッ

 暗い空を端から端まで横断した、太く眩(マバユ)く輝く龍は、誰もが畏怖するその猛々しい姿を一瞬だけ見せたかと思うと、

 …………ドゴゴゴオオオオオォォォゥン ォゥン ゴゴ ォゥン

 暫くして、まるで思い出したかのように、低く長く尾を引く咆哮を轟かせ、その場の地面と共に空間を揺るがしてみせる。

「仕方ない。もう少し待つか」

 俺がようやっと自らの心に決着を付けたその時だった。

 ゴキベキャッ ブシュッ!

 それは目の前に有る、僅かに開いた窓の隙間から聞こえてきたのだ。


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