フェーン・ルード・オム・ファイクリッド ~LeliantⅡ統合版~
――いい領主なのだろう。それが、リリアが抱いた感想だった。
良い統治をしているようであるし、城下の人々には好かれ、今回のように小さな事故でも目の届くところなら駆けつける。
馬車の馬がパニックを起こし、暴走したらしい。軽症が二人、馬の被害と折れた標識ぐらいで重大事故には至らなかった。馬車の御者と少し話し、後は役人に任せると、今は澄ました顔で城への帰路についている。
二人並んで歩きながら、リリアはリュシオスを見た。二人とも、王都に居た頃のような畏まった服装ではない。彼は初めて会ったときのような――まあ、旅用ではないが――服装で、彼女も高くはあるがありがちな格好だ。
「……どうした?」
その、冷たいアイスブルーの瞳に彼女を映し、訊いてくる。彼女が数歩遅れたからだろう。
「……別に」
彼女が追いつくと、何事も無い無表情でまた歩き出す。その横顔を見ながら、リリアは胸中で嘆息した。
王都を出てから、彼は見る間に元に戻っていった。泣く事も、哀しげな表情を見せることもなくなり、初めて会った頃の様に横暴で我侭になっていった。
それはいいのだ。彼女とて、いつまでもふさぎ込んでいて欲しくはない。しかし、王都で見せた笑顔まで消えてしまった。
疲れた微笑だった。それが良くなったという事は、少なくとも普通の笑顔を期待していいだろう。そう思う。だが、笑顔そのものを掻き消して無表情に戻ってしまった。王都に居た頃の方が、表情豊かだったと言えなくもない。
……まあ、また彼が辛い思いをしたり、苦しみを背負うよりはましなのだが。