フェーン・ルード・オム・ファイクリッド ~LeliantⅡ統合版~

「リュシー」
 翌日の午前中。リュシオスの執務室。

 簡素な部屋で、机と棚以外に大して家具もない。リリアは、彼が机の向かい側に置いた座り心地の良い椅子に座っていた。

「リュシーってば。聞いてる?」
 黙って羊皮紙に羽根ペンを走らせるリュシオス。顔も上げない。

「…………リュシオス」
 ぴたり。彼の手が止まった。
 顔は動かさず、目だけを動かす。

 ――見ている。かなり。

「……悪かった。リュシー」
 言い直すと、また視線を戻して手を動かし始める。暫く一方的に話しかけるが、彼は何も言わない。

「……ねぇ、リュシー。
 このごろ、うるさい黙れって言わないね」
「ああ」
 以前なら、ここまで側で喋れば言われていただろう。

「いつから言ってないかな……」

「最後に言ったのはいつか、覚えていないが……」
 インクの乾いていない羊皮紙を脇に除けながら、リュシオスは言った。
「親父のところを出てからは言っていない」
 と、次の羊皮紙を広げたまま、動かない。顔を上げてまっすぐこちらを見ている。

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