フェーン・ルード・オム・ファイクリッド ~LeliantⅡ統合版~
「リュシー?」
 動かない。ただじっとこちらを見ている。

「どうしたの?」

 沈黙。

 ただ、アイスブルーの双眸で彼女を見ていたが、おもむろに動く。
 席から立ってつかつかと側に来ると、リリアの肩を抑えて顔を寄せ――迷うことなく唇を重ねる。

 そして、何事もなかったかのように机に戻ると、また羽根ペンを走らせ始めた。
「……な、なに?」
「別に」

 王都以来、接吻されたことはなかったのだが。彼はそういう素振りを見せなかったし、彼女が素振りを見せると、決まって必要ない、しなくていいと言っていた。

 しかも……今までとは違っていた。何と言うか、王都では縋るようにしてきたのに、先程のは寧ろ傲慢さがあった。

「……どういう変化なの?」
「落ち着いたら話す」
 それっきり、彼は何も言わなかった。




◇◆◇◆◇
< 24 / 66 >

この作品をシェア

pagetop