フェーン・ルード・オム・ファイクリッド ~LeliantⅡ統合版~

 リュシオスは、まだ口をきかなかった。

 その日の夜。リリアはベッドに横になって、浴室から響く音を聞いていた。いつもは、風呂に入れとか言うのだが……彼が言うのを待っていて、かなり遅くなってしまったし、結局それすら言ってくれなかった。彼も早く寝ないと、明日に響くのだが。

 ――おやすみも、言ってくれないかな……。謝ってみようか……。謝って済むなら……。

 水音が止んだ。少し目を閉じていたら、頬に手が当てられた。やけに早く出てきた彼に一瞬疑問を覚えたが、すぐに分かった。……濡れた手だ。

 目を開けると、リュシオスの顔が間近に迫っていた。そのまま唇を重ねる。リュシオスの短い、濡れた黒い髪が彼女の頬にかかる。

「……リリア」
 不安げな、声で彼女を呼ぶ。
「リリア……」
 彼女は身を起こした。薄明かりに、一糸纏わぬリュシオスの姿が浮かぶ。
「……リリア……」
 薄明かりの下、リュシオスの目が彼女を見つめる。
 リリアが手を伸ばしてリュシオスの頬を包むと、弾かれたように彼の目が見開かれた。

「……大丈夫。そんな目しなくていい……」
 彼はただ、彼女に覆い被さった。




◇◆◇◆◇
< 29 / 66 >

この作品をシェア

pagetop