フェーン・ルード・オム・ファイクリッド ~LeliantⅡ統合版~

 リュシオスに会えないまま、時間が過ぎる。

 一ヶ月が経った。リリアは、女官や貴族と意味のないお喋りで時間を過ごす。やれ恋だの政略結婚だの、そういう話題ばかりだった。話し相手は全部オーヴェルトの人間で、この建物には他の国の人質もいると思ったのだが、誰にも会わない。

 何度か、リュシオスの噂を聞く。誰と仲がいいとか、そんな話ばかり。一週間ごとに相手が変わっていた。

 しかし、ぱたりと聞かなくなる。

 それから一ヶ月後――

「リュシー!?」
 車椅子に乗せられて連れて来られたリュシオスにリリアは駆け寄る。外傷はない。しかし、それだけ。

 頬はこけて、髪は伸び放題。今は意識がない。

「医者の話では、二週間もすれば回復するということです」

 ――それだけか……

 事務的な口調の兵士には構わず、リリアは彼を部屋に寝かせた。

「……リリア……?」
「リュシー!?」

 しばらくして聞こえた声に振り向けば、開いた、虚ろなアイスブルーの瞳でこっちを見ていた。

「リリア……来て……」
 リリアが言われるままに側に行くと、
「……俺は……生きてるのか……?」

「リュシー、大丈夫、大丈夫だから!」

「こっちに……」
 リュシオスは、横になったまま、リリアを抱き締めた。

「リリア……リリア……」
 眠りに落ちるまで、そう、呪文のように繰り返しながら。



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