ショコラ

店内のBGMが少しだけ大きくなったような気がした。

ゆったりと流れる洋楽。

私は洋楽なんかあまり聞かないけど、
その音楽は自分も違う空間に連れて行ってくれてるようで、
こみ上げてくる涙が止まるまで、顔を机にうつぶせて泣いた。


そうして30分くらいたっただろうか。
ようやく立ち上がれるだけの元気が出てきて、
私はハンカチで顔をおさえたまま立ち上がった。

さすがに、いつまでも喫茶店で泣いてるなんで恥ずかしい。
どこか一人になれる場所に行こう。


先ほどのケーキの支払いをどうしようか迷って、
カウンターの方に向かった。

ケーキを持ってきてくれたお兄さんがすぐに気付いて、
私に笑顔を向ける。


「さっきのなら、サービスなんです。実は僕が初めて作った試作品なんです。あなたはいつもあれを食べておられるので、味比べをしてもらいたかったんですよ。……どうでしたか?」

「あ……おいしかったです」


とってつけたように言った後、私はやっぱり首を振った。


「ごめんなさい。本当は、今日は味がよくわかんなかったんです。多分、おいしかったと思います。ごちそうさまでした」

「そうか。……ごめんね?」

「いえ。ご、…ごめんなさい」


お兄さんが、困ったような笑顔を向けた。

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