ショコラ


「どうして謝るの」

「え? ……だって、お兄さんが謝るから」

「あ、そうか。はは」


お兄さんが、人のよさそうな笑顔を見せたから、
私はなんだかすごく安心して、
再び涙がこぼれそうになった。

でも、殆ど話したことのないこのお兄さんに涙を見せるのは嫌で、
私はそのまま頭を下げて、喫茶店から出た。

もしかしたら、お兄さんが何か言ってたかもしれないけど、
聞いてる余裕も今は無くて、店を出てすぐに走り出した。


徹のお気に入りの喫茶店。
ここから駅までの道はいつも一緒に帰った思い出の道。

ゆっくり歩いていたら思い出ばかりがよみがえるから、
今の私には辛い。

駆け足で駅まで急ぐ。
苦しい息とともに、こみ上げてくる涙を飲み込む。


もう恋なんてしない。

こんなにつらいなら。


恋なんてしなければよかった。




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